2009-01-01から1年間の記事一覧

(二三)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一四

一連の記述をつづけて、そろそろ本当に一年が過ぎようとしています。私が最先端=亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟』における「あなたじゃない」解釈に仰天したのが、昨二〇〇八年七月初旬でした(「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ね…

(二二)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一三

(承前) さて、アリョーシャの手記は「地獄と地獄の火について。神秘的な考察」で終わっていました。いくつかに分割しますが、全文を引用します。 神父諸師よ、『地獄とは何か?』とわたしは考え、『もはや二度と愛することができぬという苦しみ』であると…

(二二)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一三

(承前) しかし、先へ進みましょう。「今は亡き司祭スヒマ僧ゾシマ長老の生涯より。長老自身の言葉からアレクセイ・カラマーゾフが編纂」について、私はしゃべろうとしていたんでした。 私はここまで『カラマーゾフの兄弟』におけるイワン・カラマーゾフに…

(二二)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一三

(承前) さて、私はこれから「今は亡き司祭スヒマ僧ゾシマ長老の生涯より。長老自身の言葉からアレクセイ・カラマーゾフが編纂」についてしゃべるつもりなんですが、その前にちょっとだけ寄り道をして、もう一度、最先端=亀山郁夫の例の文章に戻ります。 …

(二二)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一三

(承前) さて、「悪魔」がイワンを籠絡しようとするには、イワンの「良心」の傷口に塩を塗りこめ、苦痛をもたらすことが必要でした。「悪魔」が持ち出す論点は必ずそこに触れるものでなくてはなりません。「悪魔」が執拗に攻撃するのは、イワンの弱点に対す…

(二二)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一三

(承前) しかし、私はまだイワンとフョードルとについてしゃべっておくべきだろうと思います。ふたりが同根の考えを持っていたとはいいましたが、補足として、たしかに同根の考えを持ってはいたにせよ、実はふたりがどう違うのかということをしゃべりたいん…

(二二)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一三

(承前) しかし、またべつの側面から私はしゃべってみましょう。「悪魔」はイワンにこういいます。 「しかし、僕の目的は立派なものだよ。僕は君の心にほんのちっぽけな信仰の種子を一粒放りこむ、するとその種子から樫の木が育つんだ。それも並大抵の樫じ…

(二二)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一三

(承前) しかし、手綱を緩めずに先へ進みましょう。 イワンはスメルジャコフとの三度めの対面で、フョードルを殺したのがミーチャではなく、スメルジャコフであることを知ります。 「実行した? じゃ、ほんとにお前が殺したのか?」イワンはぞっとした。 脳…

(二二)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一三

(承前) さて、「彼(イワン)の前には誰もいません。束の間、アリョーシャやゾシマ長老が浮かび上がってはきますが、その他に彼の前に「人間の顔」を持った生身の人間の現れることがありません」といったばかりの私ですが、むろん、私はわざとカテリーナ・…

(二二)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一三

もうずいぶん遅かったが、イワンはまだ眠れずに、考えごとをしていた。この夜、彼が床についたのは遅く、二時ごろだった。だが、今は彼の思考の流れをすべて伝えるのはやめておこう。それに、まだ彼の心に立ち入るべきときではない。いずれ彼の心を語る順番…

数日中にUPします。

ついいま、ようやく懸案の原稿を書き上げました。数日中にUPします。ただし、あまりにも長い(文庫本の字詰めでは約180ページ)ので、何回かに分割してのものになります。何回になるか、どこで分割するかということは、これから考えます。

『なにもかも小林秀雄に教わった』

以前に私の指摘した『なにもかも小林秀雄に教わった』(木田元 文春新書)の見出しの誤り ──「ドストエフスキーをニーチェの後継者と捉えたシェストフ」── ですが、いまの刷では修正されています。「ニーチェをドストエフスキーの後継者と捉えたシェストフ」…

(二一)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一二

いま、『死に至る病』の終わりの方をぱらぱらとめくっていて、目についた文章があったので、引用しておきます。 躓きの最低の(人間的にいえば、最も無邪気な)形態は、キリストに関する全問題を未決定なままに残しておいてこう判断するものである、── 「私…

スーザン・ボイル

もうご覧になっている方がほとんどかもしれませんが、それでもまだの方へ、この動画をお薦めします。 あまりにも素晴らしく、この数日にいったい何回観たかわかりません。 どうですか? 私も「みんな」と一緒です。私はこれに抗うことができません。 どうか…

(二〇)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一一

さて、しばらく前のこと、休みの日 ── ということは平日です ── の午後、私はクリーニング屋に行こうとしていて、ある信号を渡ったんですね、手には汚れ物を入れたクリーニング屋の手提げ袋。渡ったところで、おそらく高校生かそれ以上の、若いやつら数人が…

(一九)村上春樹さま

村上春樹さま はじめまして。木下和郎と申します。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と『スプートニクの恋人』とのどちらにもに名まえの挙がる町の書店に勤めています。いや、お会いしたことがないとはいえ、「はじめまして」ではないかもしれ…

(一八)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一〇

5 朝日新聞の夕刊一面で連載されている「人脈記」における「感染症ウォーズ」の三、「「知識ワクチン」を接種せよ」(中村通子)をたまたま読みました。 病原性大腸菌O(オー)157の嵐が日本を襲ったのは、96年だった。5月末に岡山県の海辺の町で子ど…

(一八)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一〇

4 ── ちょっといいたいんですがね。いましがたあなたが引用したXTC ですが、あれにつづくのはこういう歌詞じゃないですか。 I believe the printed word should be forgiven Doesn't matter what it said(Andy Partridge (XTC) « Books Are Burning »)…

(一八)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一〇

3 ── そう怒らないで。もうちょっと「亀山郁夫的読書」についてきかせてほしいんですが。 何だ、まだいたんですか? 冷やかしはもうたくさんなんですよ。 いいですか、もう一度いいますよ。私の直面している問題は、まず、私のこの一連の文章が批判であるた…

(一八)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一〇

2 どうやら昨年十月のロシア文学会でこういうことがあったらしいです。 今回は、二年前に岩波文庫で『戦争と平和』を訳された藤沼貴先生の特別講演があった他、「ロシア文学にとって翻訳とは何か」というワークショップ(シンポジウム)があった。この企画…

(一八)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一〇

1 ── いやあ、ずいぶん怒っているみたいじゃないですか? もちろん怒っています。あ、私のことですよね、怒っているというのは? まあ、これを読んでいる亀山郁夫も「怒りにうち震え」ているでしょうね。「私の人格を貶めるような誹謗中傷」とかなんとかい…

(一七)「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その九

5 この文章「その九」も「4」までを書いてきて、これが「5」になるわけですが、正直、私は亀山郁夫のあまりにも馬鹿な読み取りに辟易し、それらをひとつひとつ採りあげてつぶしていくのにうんざりしつつあります。というのも、実は問題は、個々の場面やら…