2007-01-01から1年間の記事一覧

(一六)

スザンネ・ビア監督の映画『ある愛の風景』を観ました。この監督の作品は、ちょっと前に『アフター・ウェディング』を、二〇〇四年には『しあわせな孤独』を観てもいて、今回もそのつながりで観たんです(もっとも、『アフター・ウェディング』は『しあわせな…

(一五)

さて、前回のあまりにも引用の分量の多い ── 私自身のことばのあまりにも少ない ── 文章のつづきを書きながら、自分で違和感をおぼえ、自分でいらだっています。私はどうやらあれらの引用をまるで他人事のように、ただ撒き散らした・放り出した・ぶちまけた…

なんですか、これは?

いまアマゾンでヴォネガットの著作をチェックしていて、驚きました。 『スローターハウス5』(早川文庫)が最低価格1,199円。 『パームサンデー』(早川文庫)が33,500円。 『母なる夜』(早川文庫)が12,799円。 なんですか、これは?

(一四)

前回、私はキルケゴールの名を引いて、アリョーシャ・カラマーゾフの「謙遜な勇気」といいましたが、それはこういうことなんです。 いまここに一人の貧しい日傭取りと史上に類のない程の強大な権力をもった帝王とがいるとする。この無上の権力をもった帝王が…

『善き人のためのソナタ』

(フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督) 本ではなく、映画を紹介します(今後も「読書案内」は映画をも扱うことになるでしょう)。 この映画を最初の公開時の終わりに私は観ているんですが、直前にとった食事でビールを飲みすぎてしまい、途…

(一三)

ちょうど二十歳になる直前のぎりぎりのところで、私は、ドストエフスキーの最後の長編小説群を『罪と罰』、『白痴』、『悪霊』、『カラマーゾフの兄弟』の順 ── これは書かれた順・制作順でもあります ── で読み、この体験はそれから四半世紀を過ぎようとす…

(一二)

大西巨人『神聖喜劇』の語り手、昭和十七年はじめに初年兵教育を受けている東堂太郎は軍の上官に睨まれる・嫌われる・うっとうしがられる(睨まれざるをえない・嫌われざるをえない・うっとうしがられざるをえない)ような人物で、そのために、彼の言動はい…

『蟻の兵隊』

(池谷薫 新潮社) この本の「序章 蟻の兵隊たち」にはこうあります。 一九四五(昭和二十)年八月、ポツダム宣言を受諾した日本は連合国に対して無条件降伏した。これにより海外に派遣された帝国陸海軍の将兵たちは、すみやかに武装を解除され、家族の待つ…

(一一)

問題 ── 次の文章を読んで、後の設問に答えなさい。 この家はおそらく( )倒壊する家の一軒になるだろう(おそらく、その時私はまだこの家の中にいるはずだ)。チャーノとラウロの家は倒れたし、フアン・フランシスコとアシンの家の思い出と壁は雑草と潅木…

(一〇)

カート・ヴォネガットの『国のない男』(NHK出版)── 出るなりすぐに買って読みました ── ですが、訳者は金原瑞人。なぜ(早川書房でなく)NHK出版なのか? なぜこの訳者なのか? なぜ浅倉久志や飛田茂雄じゃないのか? まずは、そして、読みながらも…

(九)

ヴァレリー『ムッシュー・テスト』を紹介した後で、この数か月に私が読んでいた・再読していた本 ── ジョン・クラカワー『荒野へ』、大西巨人『未完結の問い』・『深淵』・『三位一体の神話』、カート・ヴォネガット『国のない男』など ── についての原稿が…

(八)

最近に大西巨人の『深淵』(光文社 上下二巻)の再読を終えた ── いまは『三位一体の神話』を再読中です ── んですが、上巻の終わりの方に、こういう文章があります。 ── イプセン作戯曲『民衆の敵』最終第五幕の幕切れで、主人公の医師ストックマンは、「独…

『ムッシュー・テスト』

(二) 書き手は、自分の文章が読者にどう読まれるかを予測して書かなくてはならない ── しかし、読者のために書くのではない ── けれども、そこで彼の想定している読み手の読書レヴェルは一定以上に優れているものでなくてはならない、と私は考えています。…

『ムッシュー・テスト』

(ポール・ヴァレリー 清水徹訳 岩波文庫)(一) この作品のことはずっと気にはしていて、だいぶ以前に福武文庫での『テスト氏』(粟津則雄訳 一九九〇年)を読みかけにしたままでした。途中で放り出してしまったんですね。で、こちら、新訳としての『ムッ…

『精神のたたかい』(立野正裕)発売

立野正裕『精神のたたかい 非暴力主義の思想と文学』(スペース伽耶)が発売されました。巻頭五十ページほどは「徹底的非暴力主義をめざして ── 大西巨人氏との対話」です。 本編全三部の各表題は、「第一部 非暴力と文学・芸術 ── トルストイ、ロレンス、コ…

(七)

ここしばらくで、ようやくこの一年あまり ── 実は、そんなふうに自分で考えているよりもっと長い年数になるかもしれませんが ── に自分のいた・押し込められていた・引きこもっていた場所から脱することができたかもしれないという気がしはじめています。や…

(六)

私がときおり思い出すことばに、こういうのがあります。 「ぼくはこの世界で自分が正当に権利を主張しうるものは、なにひとつなくなってしまった、という風に感じていたのさ」(大江健三郎『個人的な体験』 新潮文庫) この彼のことばを聞いた女性が彼にこう…

(五)

筒井康隆の『巨船ベラス・レトラス』(文藝春秋)を読みました。 ここでは、私はこの作品の全体を紹介するというのでなく、ある部分についてのみしゃべってみようと思います。 登場人物である作家が文学とそれをめぐる状況について非常に妥協的 ── というこ…

(四)

先の東京都知事選(二〇〇七年四月八日 立候補者十四人)で、約一〇二三万の有権者のうち、投票者は約五五六万人(投票率は約五十四パーセント。前回は約四十五パーセント)。当選した石原慎太郎(七十四歳・三選)は約二八一万票を獲得。以下、浅野史郎(五…

(三)

さて、少し前にも妻に「世のなかのひとたちは、あなたのような読みかたをしないんだよ」といわれたんですが、たしかにその通りだろうなと思います。しかし、いいんですよ、それで。私が望みをかけているのは、そんな大多数のひとたちなのではなくて、ほんの…

(二)

ほぼ二か月前に「はじめに」の改稿を終えて、それでもまだまだ自分のいい損なったこと・いい足りないこと・いいえなかったことの多さを感じています。もしかしたら、この先も私は延々改稿しつづけていくことになるのじゃないかという予感があります。しかし…

(一)

サイトの更新がずっと滞ったままですが、私がこの企画のことを一日も忘れたことのないこと、それどころか、始終考えつづけていることをいっておこうと思います。まあ、その結果がこれなんですけれど。「はじめに」をいまの形にするまでに一年を要しているわ…

「はじめに」の改稿

やっと「はじめに」の改稿を終えました。(一)「こういうもの」 (二)「読書案内」をする (三)短く簡潔な文章・「速読」・「多読」のばからしさ (四)新刊・ベストセラー、宣伝、書店員…… (五)広告も誇らしげな「一〇〇万部突破!」を歓迎できるか? …

「はじめに」の改稿のこと

数日中に「はじめに」の大幅な改稿(ここしばらくは、これにかかりきりでした)をUPします。その後、他の原稿についても同様の改変を行なうことになるだろうと考えています。

『おかしな人間の夢』

(ドストエフスキー 太田正一訳 論創社) ここで紹介しようとするのは『おかしな人間の夢』なんですが、本題に入る前に、まず長々とカート・ヴォネガットの小説『ホーカス・ポーカス』(浅倉久志訳 早川文庫)から引用しようと思います。この小説のなかに『…