『トーニオ・クレーガー』(新訳)


 『カラマーゾフの兄弟』についての文章は書きつづけているのですが、今月河出文庫で『トーニオ・クレーガー』(トーマス・マン)の新訳が出たために、これについての長文を書かなくてはならなくなりました。新訳は平野卿子によるもの。

 多くの欧米の作家同様、マンもパラグラフが長いが、訳文では適宜改行をくわえてある。パラグラフというのは、一種の息継ぎのようなものだと思う。一般的にいって、言語に共通点があると、息継ぎの場所も似てくる。いいかえれば、日本語とドイツ語のように全く異質の言語では、当然その場所も大きく異なっていることになる。
 また、そのほかの点でも、日本語の感覚を優先させた。たとえば、人物の固有名詞、とくにフルネーム(「トーニオ・クレーガー」など)については、多くの場合、単に「トーニオ」などと記すに留めた。これは固有名詞や人称代名詞に対する欧米人と私たちの感覚の違いによるものである。人称代名詞のかわりに固有名詞を当てたり、主語を省いたりすることが、すでに翻訳でも一般的になっているのをみても、それは明らかだ。

(平野卿子「訳者あとがき」)


 ── だそうです。

 少しの間、こちらにかかりきりになります。