逮捕


 昨日、夜八時半過ぎ、前日に二十冊ものコミックを万引きしていた(昨日、ヴィデオ映像で確認していた)男がまた来ているのを見つけ、彼がまた犯行に及ぶのを確認、最後はこちらが馬乗りになって押さえつけ、警察に引き渡す。市の本署での私の聴取が終わったのが今日の午前一時。
 犯人を馬乗りで押さえつけて、私が得意になっていたか? 何か勝利感やら満足感を得ていたか? とんでもない。
 うんざりだ。なぜ四十八歳にもなってこんな格闘じみたことをしなければならないのか? もう私の身体能力はウルトラマンほどの時間も持たない。犯人が私の店だけでなく、他の書店でも大量の万引きをしていて ── 揉み合いのうちに床に散乱した分量だけでもかなりのものだったが── 、リュックも手提げも相当な重量になっていたために、彼の動きが鈍くなっていたわけで、本来なら私が互角に闘える相手ではなかった。彼は四十歳。前科もいろいろらしい。
 万引き ── 先週はわかっているだけで一件(これは捕まえた)、今週は今日で三件め。いや、今日(というか昨日)はもう週が変わっているから、三つめはまた別扱いか。だから、先々週が一件、先週が二件、今週がとりあえず一件ということね。
 そればかりか、一昨日は、同じビルのべつの店舗で客にちょっかいを出していた酔っ払いを怒鳴りつけ、追い出しもしたばかりじゃないか。
 やれやれ。
 ついでにいいますが、私にとっての最先端=亀山郁夫批判も同じこと。もっとも、最先端=亀山郁夫は万引き犯なんかよりもっとずっと大きな罪を犯しているわけですけれど。


 そんなことより、先週金曜日の「てっぱん」だ。朝の連続テレビドラマ(NHKには申し訳ないが、観ていない方はネットで「てっぱん 動画」と検索すれば、どうにかこうにか動画にたどりつくことができるだろう)。あの十五分の枠内でのあの演出だ。いろんなことが完璧に描かれていたが、なかでも、主人公あかりが自室に戻り、トランペットを吹くまでの演出があまりにも凄い。トランペットのケースを開ける音、その間も聞こえている外の鳥の声、トランペットを布で磨く音、どこかのパーツのネジを巻く音、そればかりか、彼女が立ち上がって、最後のリードをつける音、それから、あの演奏が始まる。それまでのあの時間の音たちをずっと拾っていく。こういうことのできるひとの数がものすごく少数なのを私はよく知っている。こういう「溜め」のできるひとがどれだけ少ないか。そのことを考えながら、私は、いま新作『ぼくらのよあけ』の連載を始めた今井哲也がそもそもプロデビュー作『ハックス!』からいまにいたるまで、常にその「溜め」のあまりにもよき実現者であることを思うのだ。彼のその「溜め」は絶対に損なわれてはならない。彼の編集者は絶対にこれを守ってやらなくてはならないと思う。もう二十五日には、「アフタヌーン」の次号が出てしまう。未読のひとは書店に飛んで行き、次号の出る前に、いま出ている「アフタヌーン」をすぐに買って、「ぼくらのよあけ」を読んでおきなさい。