東京書籍という出版社があります。小学校・中学校・高等学校の教科書を作っている会社です。ホームページ、教科書に関してはこちら(http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/kyozai2008/menu.html)。
 教科書以外にも本を出しています。「東書アクティブ・キッズ」というシリーズがあって、そのなかに『10代をよりよく生きる読書案内』があるんですね。

 10代で是非読んでほしい本102冊を紹介。類書には今まで取り上げられなかった本、最近の話題作、古典的名作など、幅広い視点で読書の感動やおもしろさを伝える。全国学図書館協議会選定図書。


  ── ということです。

 編著者は ──

こやま峰子(こやまみねこ)
詩人、児童文学作家。第28回「日本童謡賞特別賞」受賞。第26回「巌谷小波文芸賞」受賞。第46回「児童文化功労賞」受賞
著書『名作へのパスポート』(金の星社)『地雷のあしあと』(小学館)『いのちのいろえんぴつ』(教育画劇)『心に残る愛唱歌』(東京書籍)他多数。


 ── ということです。(http://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/4487755660/

 さて、『10代をよりよく生きる読書案内』の「海外編」というのが刊行されたんですね。私の勤める書店にも入荷しました。

 読書のプロ5人が厳選した、いま10代の子どもたちに読んでほしい海外作品80冊を紹介。「あきらめない」「想いあうこと」「踏み出す勇気」「未来のために」など9つのテーマごとに、古典的名作から最新の話題作を網羅した海外作品読書案内の決定版。


  ── だそうです(http://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/4487755646/)。もしかすると、この本も「全国学図書館協議会選定図書」になるのかもしれません。なりそうですね。

 編著者は、やはりこやま峰子。

 私が手にとって、目次にざっと目を通してみると、ありました、ありました、『カラマーゾフの兄弟』(もちろん最先端=亀山郁夫訳)が。「また何も知らないで安易に紹介したんだろうな」と思いながら、私が『カラマーゾフの兄弟』の紹介文章(こやま峰子自身が書いています)を読むと ──

清らかな魂の天使はいずこ
 一八六〇年代のロシアの地方都市に暮らす父親フョードルは財を築き、美女・グルーシェニカと酒に溺れて暮らしている。長男ドミートリーは父親ゆずりの放蕩者で父親が夢中になっているグルーシェニカに執心し許嫁を放り出してしまう。父親を殺したいほど憎む半面、高潔な精神を持つ。次男イワンは父親と同様に人を蔑視し神を否定し兄ドミートリーの許嫁カテリーナに激しい思慕を抱く。三男アリョーシャは心優しく、愛の教えを説くゾシマ長老を尊敬している。彼は父親をはじめ誰からも愛されているがカラマーゾフの血が流れていることを強く意識している。読者は父親フョードルの殺害犯を捜しつつ、厖大な小説の世界に迷いこむ。カラマーゾフ家の料理人スメルジャコフはフョードルが白痴女に産ませた子で癲癇の病を持つ。まわりから差別されているので父フョードルを憎む気持ちが強い。グルーシェニカはフョードルと組んで悪事を企み、自分に夢中になっている父親と息子を手玉に取る。スメルジャコフはイワンにそそのかされて父親を殺害。判決の前日、彼はイワンを訪ね、結局、父親を殺したのはあなただ、と言い残し自殺する。公判の席で、証人のイワンは「わたしがスメルジャコフをそそのかし殺させた」と叫ぶ。
[メッセージ]
カラマーゾフの兄弟』は、すべての年代の人々が各々の人生体験で理解し味わえる作品。それが古典といわれる理由でしょう。かなりの長編作品だけれど、カラマーゾフ家の父親の殺害事件をめぐる犯人を探しながら容易に読み進んでいくことができます。私たちはお金を全く無視して生きていくわけにはいきません。上手につきあっていくしか道はないでしょう。カラマーゾフ家の人々は父親の遺産問題から罪深いドラマにはまりこみ、物語は一層混沌としてきます。金銭が人の欲望と複雑に絡んだとき、悲劇が生まれるとドストエフスキーはいいたかったのではないでしょうか。諸悪の根源は金銭にあるので、地獄の深みにはまらず生きていかなければなりません。ゾシマ長老とイワンの間でたたかわされるキリスト教無神論の対話はこの小説の核であり難解な部分でもありますが読み進んでいくうちにみえてくるものがあります。不朽の名作物語の中で光を探してください。奇蹟と神秘に出会えるかもしれません。

(こやま峰子『10代をよりよく生きる読書案内 海外編』 東京書籍)


 ああ、これは確実に「全国学図書館協議会選定図書」になるでしょうね。「全国学図書館協議会」がどんな組織かは知りませんが、きっとたくさんの本を読んでいる信頼できるひとたちの集まりでしょうから。

 ああ、素晴らしいこの世界!