「些細なことながら、このようなニュアンスの違いの積み重ねによって読者は、少しずつ、しかし確実に原典から遠ざけられて行く。」その一六


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 たまたま最近になって、これを読みました。中央公論新社のホームページです。

中公文庫『文学的パリガイド』お詫びと訂正

中公文庫『文学的パリガイド』(二〇〇九年七月二十五日刊行)のなかで、以下の誤りがありました。
読者の皆様にご迷惑をおかけしましたことを謹んでお詫びし、訂正致します。

二〇〇九年八月十一日
中央公論新社

p.39、後ろから3行目
(誤)ロン = ポワンから西側は…… →(正)ロン = ポワンから東側は……

p.72、6行目
(誤)サン = ミシェル大通りの西の地域…… →(正)サン = ミシェル大通りの東の地域……

p.72、7行目
(誤)サン = ミシェル大通りの東側の六区は…… →(正)サン = ミシェル大通りの西側の六区は……

p.100、後ろから4行目
(誤)イノサン広場から西に…… →(正)イノサン広場から東に……


 この『文学的パリガイド』の著者は誰か? 右の記事には著者名がありません。そこで、私はべつの図書検索サイト(e-hon)で調べてみました。著者は鹿島茂です。ところが、同じ画面に当の中公文庫と並んで、もう一点、その親本が表示されていたんですね。「出版社名 日本放送出版協会」(NHK)、「出版年月 二〇〇四年七月」。
 つまり、おそらくこの本はまるまる五年間誤ったままだったということです。日本放送出版協会の編集者は出版時に当該箇所をチェックしていなかったし、以後も誤りに気づかなかった。さらに、中央公論新社の編集者もチェックなどせず、親本の原稿をそのまま文庫として流したわけです。著者についてはいうまでもありません。
 たぶん、文庫化を機に、親本よりも広範な読者がついたために、そのうちの誰かからの指摘があって、初めてこの誤りに気づいたということでしょう。