NHK ETV特集「神聖喜劇ふたたび」


 前の記事にコメントをいただいたので、簡単ではありますが、もうすこし書いてみます。
 私があの番組に不満を感じるのは、たとえば、「東堂太郎=大西巨人」という図式に乗っかって、『神聖喜劇』を大西巨人の体験記ででもあるかのように扱ったことです。
 また、番組の時間が短すぎること。「今回のETV特集は十二時間枠で放送いたします」ということがあってもいいだろうと思うんです。つまり、題材を「枠」に合わせるというやりかたがおかしい ── 新聞や雑誌の書評などにもいえることです(「まずコーナーありき」というやりかた) ── と考えているからです。『神聖喜劇』という小説がそんな「枠」のもとに書かれたと思いますか? それを、九十分という枠に無理やり押し込むから、ああいうことになります。
 ああいうことというのには、たとえば、大前田軍曹の番組における紹介などがあります。番組のあのやりかたでは、実際の『神聖喜劇』で描かれた大前田軍曹の、あのなんともいえない大きさ・深さが全然伝わりません。ということは、大前田への東堂の思いなども伝わらないわけです。
 また、東堂の「我流虚無主義(私はこの戦争に死すべきである)」は、やはり、はじめにもっとしっかり伝えておかなくてはならなかっただろうとも思います。そうでないと、そこからの「転心」の大きさ、すごさがわからなくなります。それを、番組は阿部和重のコメントに頼ったかもしれません。しかし、逆に、阿部和重のコメントがより活きるように、番組はまず東堂太郎の「我流虚無主義」を徹底的に周知させるべきでした。
 それに、「累々たる無責任の体系」の頂点の話は、もっと突っ込んでほしかった。
 さらに、俳優西島秀俊大西巨人との対話があまりの短さで驚きました。ああいう若いひとがいまどんなふうに作家に問うのかというのは非常に大事で、せめてそれだけにも一時間くらいは割いてほしいものだと思いました。
 朗読劇という形はとてもよかったと思います。
 漫画については気にしていません。逆に、あの漫画のプロデューサーにもっと語らせたらいいだろう、また、あの映画脚本家にももっと語らせるべきだと思いました。
 簡単ですが、前回の補足です。