この五十二年間


 この五十二年間、負けるのが嫌だと思ったことがない。誰かに勝とうと思ったことがない。そのために必死に頑張ったなんてことが、これまでの人生で一度もない。
 サッカーをしながら、ゴールしたいなんて思ったことがない。バッター・ボックスに立ちながら、同じホームに戻って来ようだの、まして二塁まで行こうなんてことすら思ったこともない。
 何かをがむしゃらにやったなんてこともない。
 いま、読んだり、書いたりすることに自分の力があると思ってはいても、がむしゃらに頑張ったからではないし、誰かに負けまいとしたからでもない。そうではなくて、周囲を見渡して、あまりに周囲の力のないことを確認しただけのことだった。つまり、私が上がったのではなく、周囲の方が沈下しただけのことだった。
 のんびりだらだらでいいじゃないか。
 他人にできることなんかだったら、自分にできなくていい。
 この五十二年間、誰かと勝負したいなんてただの一度も思ったことがない。
 ただ、自分にできることをしてきたというだけの自然な話だ。